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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4795号 判決

原告 中島喜陸こと中島吉雄

被告 大関源蔵

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は、原告に対し、別紙目録記載の物件につき、昭和三〇年四月八日大阪法務局江戸堀出張所受付第四、四四七号をもつてなされている昭和二九年八月一一日代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」、との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「一、別紙目録記載の物件(本件物件)の所有権は、その所有者であつた原告の先代中島市太郎から、後述するような経緯のもとに、被告に移転され、所有権移転登記手続がなされているが、三ないし五で述べるとおり、右所有権移転は効力を失つているものである。そうして、市太郎は昭和三〇年五月一六日死亡し、同人の財産を妻八重、長女美代、長男原告、二男巖、三男清が相続したが、原告以外の相続人はその相続後、本件物件に対する自己の持分をいずれも放棄したので(たゞし放棄の申述はしていない)、結局、本件物件は原告一人の所有に帰しているものである。

二、市太郎から被告への、本件物件の譲渡の経緯は次のとおりである。

市太郎は、その経営する中島電機製作所が金融困難に陥つたとき、知人である被告に依頼し、昭和二九年八月一一日金一五〇万円を月六分の利息で借り受けるとともに、時価六〇〇万円の価値のある本件物件を右債務の代物弁済に充てる旨の代物弁済の予約をなし、かつ、右代物弁済の予約を原因として、所有権移転請求権保全の仮登記をした。

その後、市太郎は被告に対し、約定に従い金利等合計金約九〇万円を支払つたが、到底右高利を支払うことのできない状態となつたので、昭和三〇年三月頃大阪簡易裁判所へ調停の申立をしたところ、被告から市太郎に対し、

(一)  被告は、中島電機製作所を株式組織として再建を計ること、

(二)  同製作所の旧債務約五〇〇万円は、被告において引き受けること、

(三)  市太郎を新会社の顧問とし、更に中島家から重役一名を参加させること、

(四)  中島家の生活をさしあたり援助する趣旨で、金一〇〇万円を贈与すること(一時金二〇万円、残額金八〇万円は月五万円宛の月賦払)、

の条件で、本件物件を代物弁済として所有権移転の本登記をするようにとの申出があり、なお、もし右本登記後において前記の条件を履行しないときは、本登記の抹消をする旨の確約をした。市太郎は当時胃癌で臥床中であり、かつ、多額の負債に困つていたときであつたから、右被告の申出を信頼し、これを承諾し、昭和三〇年四月八日大阪法務局江戸堀出張所受付第四、四四七号をもつて、被告に対する所有権移転登記を完了した。

三、しかし、被告は右契約に従い金二五万円を支払つたのみで、その他の条件を全く履行せず、更に、市太郎の死亡後は右契約さえ否認するに至つた。これらの態度から考えると、被告には、当初から右契約履行の意思がないのに、確実にこれを履行するもののようによそおい、市太郎をそのとおり誤信させて所有権移転の意思表示をさせたことが明らかとなつた。それで、市太郎の相続人である原告は、被告に対し、昭和三〇年六月一八日付内容証明郵便で右詐欺による所有権移転の意思表示を取り消した。従つて本件物件の所有権は原告に帰したから、代物弁済を原因とする前記登記の抹消を求める。

四、仮に、右譲渡が詐欺によるものでないとしても、被告は、契約上の諸条件を履行しないときは移転登記を抹消する旨の特約をなし、被告において右条件を履行しないので、被告に右移転登記を抹消すべき義務が生じている。予備的に、右特約に基き、被告に対し、登記の抹消を求める。

五、仮に、以上の主張がすべて理由がないとしても、被告が市太郎をして代物弁済の予約をさせた昭和二九年八月一〇日当時、市太郎は多額の負債で事業に行き詰り、甚だしい窮境にあつたところ、被告は、これに乗じて、貸付金一五〇万円の四倍に相当する金六〇〇万円の価値ある本件建物につき代物弁済の予約をさせ、続いて代物弁済によりこれを取得している。かゝる行為は民法第九〇条に違反する無効なものである。この無効な代物弁済の予約に基く本登記も無効である。予備的に、右無効を理由に登記の抹消を求める。」 被告の本案前の申立及び本案に対する主張について、更に次のとおり述べた。

「一、本訴は、詐欺による所有権移転の意思表示を取り消したことを原因として、所有権移転登記の抹消を求めるものであるから、所有権の処分を目的とするような行為ではなく、所有権に対する妨害を排除する行為と同視すべきものである。かような所有権の妨害を排除する行為は民法第二五二条但書にいう保存行為に該当するものであつて、単独にこれをすることができるというべきであるから、本訴は必要的共同訴訟であるという被告の主張は理由のないものである。

二、取消権の行使は、保存行為であるから、原告が単独で行使できるものである。すなわち、取消権については解除の如き権利行使の不可分性を定めた規定(民法第五四四条)がなく、また詐欺による所有権移転の意思表示を取り消すのは、所有権に対する妨害排除を目的とするのと同様であるから、その性質上保存行為に該り、単独に行使できるというべきである。

三、法定追認があつたとの主張事実は否認する。

被告は、市太郎に対し支払を約した金一〇〇万円(金一二五万円ではない)のうち、昭和三〇年四月七日金一〇万円、同月九日金一〇万円、同年五月一八日金三万円、同月二六日金二万円を支払つたが、それはいずれも原告が詐欺の事実を覚知する以前のことに属する。原告が詐欺の事実を覚知したのは昭和三〇年六月一八日前記取消の意思表示をした直前のことである。その後において被告が契約の履行として金員を支払い原告がこれを受領した事実はない。被告の右抗弁は理由がない。

四、代物弁済予約完結の意思表示のあつたことは否認する。」

被告は、本案前の申立として、「訴を却下する。」、との判決を求め、その事由として、「原告が抹消登記を求めている本件物件は、原告の主張によれば原告の他に市太郎の共同相続人四名が共有しているものであるから、本訴はこの五名が揃つて起すことを要する必要的共同訴訟に該る。原告が単独で起した本訴は不適法として却下されるべきものである。」、と述べ、本案に対して主文同旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

「一、原告の主張事実中、本件物件がもと市太郎の所有であつたこと、本件物件の所有権が市太郎から被告に移転し、本件物件につき、原告主張の日に、原告主張のような所有権移転請求権保全仮登記及び所有権移転登記がなされたこと、原告の主張するような取消の意思表示のあつたこと、原告の主張するように、市太郎が死亡し、原告等五名が相続し、相続放棄の申述のなされていないことは、いずれも認めるが、本件物件の所有権移転の経緯等その他の事実は否認する。

二、昭和二九年八月一一日本件物件につき所有権移転請求権保全仮登記をした経緯は、被告が市太郎の依頼で、金二一〇万円を、弁済期昭和三〇年八月一〇日、利息月三分の割合、利息は毎月一〇日までに支払うという約定で貸与することになり、本件物件につき代物弁済の予約を結んだことに基くものである。

また、昭和三〇年四月八日所有権移転登記をした経緯は、市太郎が右元金及び利息を支払わなかつたので、原告と市太郎との話合いで、本件物件の所有権を、右貸金元金二一〇万円及び未払利息金四九九、八〇〇円の債務と、更に新に支払を約した金一二五万円(たゞしその支払方法は、(イ)同月七日金一〇万円(既払のもの)、(ロ)同月九日金一〇万円、(ハ)同年五月二五日より昭和三一年八月まで一六回にわたり毎月金五万円宛合計金八〇万円、(ニ)残金二五万円は、市太郎の本件物件の賃借人に対して負担している債務二口計金二五万円を被告において債務引受をする、合計三三五万円(元利金を合計すると金三、八四九、八〇〇円)を対価として移転することになり、かつ、さきの代物弁済予約の登記を利用して所有権移転登記をすることを約定し、所有権移転登記をしたものである。そして右(イ)(ロ)(ニ)の金四五万円と、(ハ)のうち、昭和三〇年五月一八日金三万円、同月二六日金二万円、同年九月二七日金五万円、同年一一月二日金一五万円、同月四日金五万円、同月一五日金五万円、同年一二月五日金五万円の合計金八五万円を支払済であり、残金は原告等の債権者である田川仁助(本件物件の第二番抵当権者)によつて債権の差押及び取立命令の送達をうけている(たゞし田川は残金が金七五万円であるという)。

要するに、被告は、市太郎と二〇数年前からの知合いであつたので、同人の債務整理、事業再建について約束したことがあるが、それはあくまでも道義上の協力を約束したものであり、前述した以上に法律上の権利義務を設定したものではない。そして被告は市太郎に対し右協力を惜しまなかつたが、その事業再建計画の実現をみないうちに、同人が死亡し、その後は技術も経験もない原告等相続人と事業について相談することもできないので、やむなく右協力を断念したものに外ならない。結局、被告として詐欺を意図する筋合なく、事実後述のとおり、時価より著しく高い対価を支払つているのであるから、詐欺呼ばわりは強うるも甚しい。

三、取消権の行使は、相続人全員で行使することを必要とする。また仮りに、原告のみが取消権者であるとしても、同人は右所有権移転の対価として被告が支払を約した前記金一二五万円のうち、昭和三〇年四月七日から同年一一月一五日までの七回にわたり合計金五〇万円を異議なく受領し、かつ、原告は本件物件の引渡しを承認し、これにより右契約を追認しているから、すでに取消権は消滅しているというべきである。

四、被告の本件物件の取得が民法第九〇条に違反するという主張に対し、本件物件の時価は、昭和三〇年四月八日当時金三〇〇万円を超えないものであり、また所轄区役所の評価額は金一、六〇五、〇〇〇円であるのに、本件物件の対価は、前述のとおり金三三五万円(当時までの元利合計金三、八四九、八〇〇円)であつて、時価よりも著しく超過しているのであるから、民法第九〇条に違反するとの主張はあたらない。

五、なお以上の被告の主張が理由がないとしても、被告は、昭和三一年一一月二四日までに到着している書面で、原告等五名の相続人に、右貸金元金二一〇万円及び昭和二九年八月一〇日以降月三分の割合による利息を、各相続負担部分に応じて、昭和三一年一二月一五日までに支払うよう、もし支払わない場合は、代物弁済予約に基き本件物件の所有権を移転させる趣旨の、代物弁済予約完結の意思表示をしたのに対し、右五名は期日までに支払わなかつたから、本件物件は原告の所有に帰している。仮定的に、代物弁済完結の意思表示によつて、原告の本訴請求の失当であることを主張する。」。

証拠として、原告は、甲第一ないし第九号証(第四号証は一、二、三、第五、第六号証は各一、二)を提出し、「甲第二号証は原告が原本に基づいて作成したものである。」と述べ、鑑定人三宅通夫の鑑定の結果、証人中島八重子、同中島清、同服部英太郎の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第一ないし第六号証、第九、第一五ないし第二〇号証、第二六号証(第一、第四、第六、第一六ないし第二〇号証は各一、二)の成立は認める、第七、第八、第一〇ないし第一三、第二一ないし第二五号証(第二一号証は一ないし四、第二二号証は一ないし五、第二三号証は一ないし三、第二五号証は一ないし一〇)は不知、第一四号証は原告の関係部分のみ成立を認めるが、中島八重子の関係部分は不知と述べた。

被告は、乙第一ないし第二六号証(第一、第四、第六、第一六ないし第二〇号証は各一、二、第二一号証は一ないし四、第二二号証は一ないし五、第二三号証は一ないし三、第二五号証は一ないし一〇)を提出し、乙第九号証の括弧内の部分は被告の記載したものであると述べ、鑑定人中西兵二及び同三宅通夫の各鑑定の結果、証人大関やすの証言及び被告本人尋問の結果を援用し、甲第二号証(契約書案の写)の写としての成立は不知、原本の存在は否認する、その他の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、まず、被告の本案前の申立について考える。

本件物件が、原告等相続人五名の共有であるかどうかについては争いのあるところであるが、仮に本件物件が原告等の共有であるとしても、共有者の一人である原告において、単独で、その登記簿上所有名義を有する者に対し登記の抹消を請求することはできると解すべきであるから(昭和三一年五月一〇日最高裁判所判決参照)、本訴が必要的共同訴訟であることを理由とする右申立は、採用することができない。

二、次に、本案について詐欺を理由とする本訴請求の当否を判断する。

原告の先代市太郎の所有であつた本件物件につき、原告の主張のような、所有権移転請求権保全の仮登記及び右仮登記に基く本登記として所有権移転登記がなされていること、市太郎の相続人である原告が被告に対し昭和三〇年六月一八日付内容証明郵便で、市太郎から被告に対する本件物件の所有権移転が詐欺による意思表示であるとして取消の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

本件物件が市太郎から被告に移転された経過について、成立に争いのない乙第一号証の一、二、証人大関やすの証言及び被告本人の供述を綜合して考えてみると、被告は、二五、六年前から同業者の関係で交誼を続けていた市太郎の依頼で、昭和二九年八月一一日市太郎に対し金二一〇万円を利息月三分、弁済期昭和三〇年八月一日という約定で貸与するとともに、右債務不履行の場合は本件物件を代物弁済として移転する旨の代物弁済の予約を結び、この予約に基き、前述仮登記をしたこと、そして市太郎は、右借受金の元利を支払わなかつたのみならず、胃癌のため入院して、極度の金融難に陥つたため、被告に追加貸出を求めることになり、昭和三〇年四月双方話合いの上で、本件物件を被告に譲渡し、さきの仮登記による本登記として所有権移転登記をすることゝし、その譲渡の対価として、右借受金の元利金債務合計二、五九九、八〇〇円を充当するほか、市太郎の入院治療に要する費用として金二〇万円、同人の家族の生活に要する費用として金八〇万円(たゞし同年五月から昭和三一年八月まで毎月金五万円づつ分割払)を現実に支払い、また同人の本件物件の賃借人に対して負担する債務二口計二五万円につき債務引受をすることを取り決めたこと(対価の合計金三、八四九、八〇〇円たゞし右契約について契約書は作成されていない)、その結果、右契約に基きさきの仮登記による本登記として前述の所有権移転登記のなされたことを認めることができる。

右認定に反し、本件物件の所有権移転の交換条件として四項目の約定があつたという、原告主張に副うような成立に争いのない甲第一号証、第五、第六号証の各一、二、第七ないし九号証、証人服部英太郎、同中島八重子、同中島清の証言及び原告本人の供述は、前掲各証拠並びに成立に争いのない乙第一五号証、第二六号証と比較検討してみると、いずれも信用することができない。もつとも被告が、本件物件の移転に際し、右認定の契約条項以外に、新会社の設立ないし事業再建等に協力することを申し出たことはこれをうかがうに難くないが、本件全証拠から判断すると、被告は市太郎に対する二五、六年前からの交誼に基き、同人の罹病、家族の困窮した生活及び事業の金融難等に同情を寄せて、同人の事業再建の援助等を道義上の範囲で好意的に申し出たものであり、それ以上に、右事項までも、当事者間に権利義務として設定したり、いわんや本件物件の所有権移転の交換条件として約定したものではないことを認めることができる。

そして、当事者間に争いのない、被告から原告に対する昭和三〇年四月七日金一〇万円、同月九日金一〇万円、同年五月一八日金三万円、同月二六日金二万円の支払、成立に争いのない乙第九号証、被告本人の供述及びこれにより真正に成立したと認められる乙第七、第八、第一〇ないし第一三号証により認められる。被告から原告に対する同年九月二七日金五万円、同年一一月二日金一五万円、同月四日金五万円、同月一五日金五万円、同年一二月五日金五万円の支払及び市太郎の本件物件の賃借人に対する債務二口金二五万円について被告のした債務引受は、被告本人の供述によると、いずれも前記認定の本件契約の履行としてなされたものであり、右契約上の残債務については、原告等の債権者である田川仁助によつて債権の差押及び取立命令を受けていることが認められる。この認定を左右するような証拠は存在しない。

そうすると、被告が市太郎に対し約定したことが虚構のものであり、被告が市太郎を欺罔して本件物件の所有権を移転させたとは認めることができないから、詐欺の主張は根底から理由がないといわねばならない。

三、のみならず本件取消権の行使は不適法であつて取消の効果を生じていない。原告は、取消権の行使は保存行為であるから共同相続人中の一人でも単独に行使できると主張するが、取消権の行使は、物ないし権利の現状(そのもの自体ないし価値の現状)を維持するための保存行為の枠を出た、権利の管理行為と考えるべきものであるから

(民法第二六四条、第二五二条参照)、単独で行使することのできないものと解するのが相当である。

また原告は、原告以外の市太郎の相続人は、相続後、自己の相続分を放棄したので、本件物件についての取消権その他の権利は原告一人に帰属していると主張するが、右放棄について、放棄の申述のなされていない以上(このことは当事者間に争いがない)、右主張は理由がないというべきである。

従つて原告のした詐欺による意思表示の取消は不適法であつてなんらの効果も生じないものといわなければならないから、その適法であることを前提とする原告の主張はこの点においても排斥を免れない。

四、次に、特約に基く主張について考える。

原告本人の供述中、右主張にそう部分があるが、被告本人の供述と対比して信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて被告本人の供述によればそのような特約のなかつたことが認められる。すると特約に基く登記請求も、これを容認することはできない。

五、次に、被告の本件物件の取得が民法第九〇条に違反するという原告の主張について考える。

本件物件の右移転当時の時価は、鑑定人中西兵二、同三宅通夫の鑑定の結果、被告本人の供述により真正に成立したと認められる乙第二一号証の一ないし三、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一ないし二、第二五号証の一ないし四、九、一〇を綜合して考えると、借地権の価額を含めて、約四〇〇万円と認めるのが相当であるところ(成立に争いのない甲第三号証及び証人中島八重子、同中島清の各証言中この点に関する部分は、いずれも具体的な合理的根拠をもつていないと考えられるので採用することができない、また鑑定人三宅通夫の建物の鑑定の価額は、鑑定人中西兵二の鑑定の結果、右乙第二一号証の一ないし三、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一ないし二、第二五号証の一ないし四、九、一〇及び被告本人の供述と対比しながら検討すると、そのまゝ正当な評価額として採用することはできない、本件建物の借地権の価額が算入されていないと認められる鑑定人中西兵二の本件建物自体の鑑定価額に、鑑定人三宅通夫の本件借地権の鑑定の価額約一四〇万円を加えると、本件建物の当該借地権の価額を含む当時の価額は約四〇〇万円と認めるのが相当である)、これに対する対価は、前認定のとおり金三、八四九、八〇〇円であり、両者は大体権衡を保つていることが認められ、原告の主張するように、本件物件の移転の対価がその移転時の時価に比較して、四分の一というような不相当なものであるとの事実はとうてい認められない。従つて本件契約が原告の主張するように窮迫に乗じてされたものであるかどうかについて判断するまでもなく、右主張は容認することができない。

六、すると、原告の主張はすべて理由がないことになるから、被告の抗弁について判断を加えるまでもなく、本訴請求は失当であるといわなければならない。よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 松田延雄 山田二郎)

物件目録

大阪市福島区下福島一丁目一一番地上

家屋番号 同町第九四番

一、鉄筋コンクリート造陸屋根平屋建

事務所兼居宅及び工場 一棟

建坪 七八坪。

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